2019年10月9日水曜日

「ラスト・吹かし」

「ラスト・吹かし」

あーおわった。

自分でもわかった。

膝って横に曲がるっけ?
そんなわけないか。

痛みと同時に悟った。
人生最後の試合まであと2週間のTM
膝が少しも曲がらねえ。これ引退だわ。

スーッと自分の中で冷めていく音が聞こえた。
なんかこれ前も聞いたわ。
中学最後の大会前、後輩にレギュラーをほぼ埋められ受験に専念した時。
高校最後の春の大会前、3か月前の重度の捻挫が再発した時。

またかよ。
そんな絶望と激痛の刹那、走馬灯のようにア式の毎日が頭の中を駆け巡る。

1年目。きつかったなー。まじできつかった。
山雅に、体幹、紅白戦。1000×4とか1000×4とか1000×4とか。
朝大ランなんかは前走るやつは見えないレベルで断トツのビリ。
他の大学がスポーツ推薦当たり前の私立でもバチバチに戦って渡り合って「一泡吹かせてやろう」っていう気迫に満ち溢れたこのチームに惹かれて入部した。
けど、このチームのベースは球際・切替・運動量。そのベースについていくのもきつかった。
おまけに、最初に仲の良かった同期は辞めていった。とにかくしんどいって言っていた。同じく仲が良かった恭平は止めようとしていた。でもおれはむしろ共感の方が強かった。

それでも必死に頑張れたのはきつい以上に、
リーグ戦に絡めていないBチーム全員の目が腐っていないこと、
どんなにきつくて苦しくても、むしろその苦しくなるまで追い込む辛さを全員で共有して楽しんでいたこと、
そんなBチームをトップチームを含めた部員全員がリスペクトを持って歓迎していたこと、
この環境と熱量が純粋にかっこよかった。
確かにスマートなプレースタイルではないかもしれない。珍プレーが起きることもあるある。
それでもその泥臭さと全身全霊を投げ打った結果生まれるプレーの数々は、もはやスカした小手先のテクニシャンなんかと比べものにならないくらいの名プレーだった。

そんなプレーにあこがれて懸命に部活をする日々。ピッチ外でも、辞めたやつの助けもあって同期にも馴染んだ。学年旅行とか合コンとかもしたし。最初にイキリたおしてた城所が実はくそ芋インキャだったり、春にしゅんって呼んでくれって言ってきたドスが一度もしゅんって呼ばれなかったり。
1年冬の頃には最高に仲の良い同期になっていた。この頃には自分の中に「辞める」なんて選択肢はなかった。
「チームの仲間のために走る」「良い結果は良い関係性から」
ア式のプレイヤーが良く走るのは、この理念あってこその全身全霊のプレイだったんだって実感した。最高の同期ができて初めて実感した。

1年冬から2年春くらいの時期。たぶんこの辺だな、岡谷さんのおもちゃになったのは。
それまでスタートラインが低すぎた自分にどこか周りが温かすぎる目で見ていたのに対して、岡谷さんは他のみんなと同じ基準で自分のプレーを評価し罵倒した。罵倒してくれた。サイドキープの時は、オレにつきっきりで、というか全体重を乗っけてきたり、練習後にはボールをかっ飛ばされて拾ってくる、これを繰り返したり。岡谷さんはもしかしたら本当に遊んでいただけかもしれないけど、あの辺から練習とかTMとかで、ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど戦えるようになった。
できるようになることが増えていくことがすごく楽しかった。対面する先輩に、同期に、「一泡ふかせたろ」この意気を持てることがうれしかった。やっとスタートラインに立てた実感。

そこからこれまでいろいろあったけど、自分の中では3回鮮明に覚えていることがある。
自分よりも格上、まぁ実際部内にも部外にも格上しかいないことのほうが多いわけだけど、格上相手に「一泡吹かせた」その瞬間、ナメていた相手に「してやられた!」って顔してる相手の顔を見たときほど心地いいものはない。

その3回は全部そんな体験。
22で圭吾さんと船田さんの間をダブルタッチで抜いた時。
カテゴリーごちゃまぜの紅白戦でなぜか城所に一度もドリブル突破を許さなかった時。
TM東大戦で1年前トップがボコボコにやられていた下地たち学芸の同期を封殺した時。

確かに向こうは油断していたかもしれない。絶不調だったかもしれない。
それでも「吹かせたろ」って意気込んで本当に「吹かせられた」とき、たぶんこれがサッカーを今も続けられた一番の原動力。中学・高校の時は明確に持っていなかったこの想い。

サッカーって最高だよなって。

あーまだサッカーしてえなぁって。
ア式のこのメンバーでしてえなぁって。

もうスーッと冷める音は聞こえなくなっていた。
代わりに聞こえてくるのは、倒れているオレに状態を聞いてくるいつきや恭平、城所たち同期の声や、「ひかりさん重い()」とか言いながらも担ぎ出してくれるグや江口たち後輩の声。
チャンメもすぐにアイシングして病院のことも教えてくれた。内定式のときおもろいじゃんとかも言ってくるけど。

11秒でもこのメンツでサッカーしたい。
そのためにやれることはやった。ここで引退するわけにはいかない。
自分に残されているプレー時間はもうほとんどない。

最後のTM。相手は帝京。たぶんうちより強い。しかも台風が来るらしい。
それでも、その限られた時間で、このメンツで、格上帝京に「一泡ふかそう」。
B2のみんなは、先週の東大戦、すごく悔しかったと思う。
自分たちが出るまで30で勝っていた相手に追い付かれた。
この悔しさをぶつけよう。
合宿の最後、結果は出せなかったけど、見城を中心に、「一体感」と「やってやる」っていう意気を持って成長したあの時を思い出して。

あくまで冷静に、前向きに、自分たちをナメている相手に、自分たちに期待していないかもしれない人たちに「一泡ふかす」、そんなワクワクと悔しさが入り混じった想いをぶつけよう。

オレはこの日をア式で鮮明に思い出せる4つ目の個人的な最高の瞬間にしたい。

・最近の出来事
初めてマジなやつ書いた。そのせいか長すぎるかも。
息抜きを期待していたらごめんね、ちょっとネタちりばめたから許して。
注射の威力マジぱない。吹かされました。一泡を。

#19 石川晃



0 件のコメント:

コメントを投稿